第27代住職 大八木正雄

住職閑話

猫と座布団

毎月お参りに行くご門徒宅に「ユキちゃん」というネコがいます。始めの頃は警戒して側には来てくれなかったのですが、最近は慣れて側に来てくれます。
冬の気配を感じるお参りの日、玄関まで出迎えてくれたユキちゃんは、そのまま仏間へ入り、私が座るはずのふかふかの僧侶用座布団の上に座ってしまいました。「ユキちゃんどきなさい」と奥さんの叱り声がしても、居心地がいいのか平気な顔をしています。しかし、無理やり引きずり下ろされてしまいました。私が座り読経を始めると、腹を立てたのか座布団をひっかく音がして、「ユキちゃんやめなさい!」と奥さんの一声。ユキちゃんはしぶしぶ隣の部屋へ退散したと思いきや、また戻ってきて、「早く終わりなさい」とばかり私の横に座って待っています。なかなか終わらない読経に痺れを切らし、あきらめて隣の部屋へ行ってしまいました。 読経が終わって私がその座布団からおりると、早々にユキちゃんはやってきました。今度は私の体温で暖かくなった座布団の上で仰向けになって気持ちよさそうにしています。そのお宅を後にした時、ふと思いました。今頃、あの座布団は片付けられている。「ああ、はかない一時の幸せ。ユキちゃん気の毒に」

さて、あらためて考えてみますと、私達は日々座り心地のいい座布団を求めて生きているような気がします。たまたまその座布団を手に入れたとしても、必ず手放さなくてはならない時が来ます。ユキちゃんのように。その時辛い悲しい思いをしても、それでも、飽きもせず座り心地のいい座布団を求めてしまいます。「あの座布団が欲しい」という思いを無くすことはなかなか出来ません。だからこそ、今をよろこべる生き方を見つけなければならないと思うのです。