第27代住職 大八木正雄
住職閑話
2024.06.30 強虫(つよむし)と弱虫
『沈黙』や『イエスの生涯』等々、キリスト教を題材とした小説で有名な遠藤周作さんは、強虫と弱虫という視点を大切にしていると仰っておられました。弱虫はよく使う言葉ですが、強虫はあまり聞いたことがありません。
ドジャーズの大谷翔平選手は、この6月も大活躍でした。相当のプレッシャーがあるはずなのですが、いつも冷静で、みんなの期待に応えて三冠王へまっしぐらです。その彼は高校1年の時、マンダラチャートなるものを作りました。ドラフト1位指名という大目標をそのマンダラチャートの中心に書き、その回りにそのために何をなすべきかを書き込むのです。例えば体力作りの方角には、食事は夜7杯、朝3杯などと、具体的な実施目標を書きます。今日の大谷選手があるのも、青少年の時代から目標に向かって合理的な、そして不断の努力があったからでした。その精神力には驚嘆します。彼こそキングオブ強虫でしょう。また、有名な人でなくても、逆境にあってもくじけず、歯を食いしばって頑張り、苦難を乗り越えてきた人も多くおられます。これが強虫の人達でしょう。
一方、逆境どころか順境にあっても、ついついなまけ心が出たり愚痴ったり、人の意見に流されて前言撤回等々、無為徒食、優柔不断な人もいます。こういう人は弱虫なのでしょう。私は残念ながらこちら側の人間のようです。
さて、遠藤周作さんは「強虫というのはたしかに強いのですが、他人を傷つけるのです。他人を傷つけても信念を曲げない為ならやむをえない、というところがある。その結果自分もすごく苦しんでいる強虫もいる。一方、弱虫は周りを傷つけたくないのです。傷つけたくないから弱いのだとも言える」とも仰います。う~ん、考えさせられます。そういえば、大谷選手は睡眠時間確保のため食事の誘いをよく断っていましたね。断られた方は残念だったことでしょう…。
人間の世界では、強虫が評価され、弱虫は否定される傾向が強いようです。何となく息苦しく、住みにくい世の中は、現代人のこのような考え方によるのかも知れません。弱虫には弱虫ならではの優しさ、受容力がありました。どうそ、弱虫が生きていける世界が無くなりませんように!
以上