第27代住職 大八木正雄

住職閑話

完全をめざして 不完全を楽しむ

5月15日放映BSテレ東の「今からサイエンス」は、宇宙の姿を解明する研究をされている千葉大学・石原安野教授のお話しでした。石原先生は、宇宙の遠くからやってくる小さい小さい素粒子のニュートリノを観測し、宇宙の姿を解明する研究をされています。ニュートリノは極めて小さいためまず見つけられないのですが、たまに原子核(中性子や陽子)にぶつかると光が放たれるので、その光をたよりに見つけるとのことでした。

ノーベル賞をもたらした岐阜県のスーパーカミオカンデは、地下深くにある直径40m、高さ40mの円筒形の水槽の内壁にある光センサーで、ニュートリノが発する光を観測します。石原先生の研究場所は、そこではなく南極の地下です。そこに1km四方の氷で出来た装置があり、スーパーカミオカンデの2万倍の感度を持っていて、新たなニュートリノの光を観測し、宇宙の姿の解明に向けて研究を進められています。

石原先生は、「宇宙の研究は紀元前2000年から脈々と続けられてきた。昔は望遠鏡、今はニュートリノで宇宙を見られるようになった。しかし、まだ途中。正しい方向を見ながら試行錯誤していくという、それが宇宙研究の面白さ。私の小さな一歩を次世代に伝えてちょっとずつ正解に近づいていく、でかい共同作業の一つになっていると思う」と仰り、「完全をめざして、不完全を楽しむ」と締めくくられました。

「完全をめざして、不完全を楽しむ」いい言葉だと思いました。これは、宇宙の研究だけではなく、あらゆる分野に通じた言葉であり、私達の生き方そのものをもを言い得た言葉だと思います。ところで、「完全をめざして」を石原先生は「正しい方向を見ながら」ともおっしゃいますが、実はこの「正しい」は、なかなかのくせ者となりそうです。科学の世界だけではなく、私達の社会も時代や地域によって「正しい方向」は変化していきます。例えば最近では、ジェンダーに対する考え方の変化等がいい例でしょう。

さて、時代や地域に関係なく正しくて、変化しないものを真実といいます。仏教でいうならば、人の苦しみの原因は老病死であるという真実です。これは、時代や地域に関係のない人間の根源的な問題です。それが完全に解決された世界を悟りといいます。これを石原先生の「完全をめざして、不完全を楽しむ」に置き換えますと、「悟りをめざして、老病死を楽しむ」となります。さあこれは、とても、とても難しい生き方ですね。しかし、間違いなく仏教がめざす人生です。そして、浄土真宗は、念仏のはたらきによってその人生を実現しようとしているのです。

絵はスーパーカミオカンデHPより

2024年6月